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国道 106 号【簗川ダム建設予定地】

またひとつ歴史ある道が水没か。

2009/04/26 公開。

概要

国道 106 号は岩手県東岸部の通称三陸地方にある宮古から岩手県内陸部の県中心部である盛岡とを東西に結ぶ延長 94.1km の一般国道である。盛岡宮古間にゆかりのある方であれば岩手県北バスの『106 急行』でおなじみの路線である。

現在、同国道に平行して流れる簗川流域に簗川ダムの建設が予定されており、これに伴いこの国道 106 号は一部の区間が水没することになっている。

この国道 106 号は詳細については今後の報告書に譲るが大変古くゆかりのある道であり、天候や地形といった大自然の困難との戦いの歴史をも合わせもった道でもある。そのため旧道部分も数多く存在し、(私も含め)その筋の愛好者からすれば大変魅力ある国道である。私もいくつかの同国道の旧道区間については現地を訪れているので今後別途報告書として取りあげていく予定である。

また、その名称も宮古街道または五十集(いさば)街道などと呼ばれ岩手県の内陸部と陸の孤島とも言われた三陸地方とを結ぶ大変重要な道として開かれた道なのである。現在も岩手県内の東西軸としてその重要さはもちろん変わらない。その国道 106 号がダムにより一部とはいえ水没するのである。

現在ダム建設に先がけ水没区間の付け替え道路(簗川道路)が建設中である。しかし、肝心の簗川ダム本体の建設については反対運動や事業内容の見直し等混乱が続いているようで具体的な工事にはまだ着手されていないようである。

簗川ダム建設事務所によると、当初の利水容量の約半分となり堤高等も変更となったようである。また堰堤建設予定場所も(敢えてそう書くが)勝手に 40m 上流に移動していたようで岩手県議会で某議員よりツッコミを入れられている。

私のようなダムや利水、治水に対して無知な人間はダムの是非について専門的な見地からどうこういうことはもちろん不可能であるが、同建設事務所作成のダム以外の案との比較資料を見ても『初めにダムありき』に見えてしまう。一応言っておくと個人的には簗川ダム建設には賛成できない。ただし、これは全くの素人意見であるのでその点お見知り置きを。

先に述べた通り、水没が予定されている国道 106 号の一部区間は地域高規格道路である『簗川道路』として付け替え道路が先行して建設されているが、これは大いに賛成である。何度もこの道を走ったことのある人間として少々高飛車な言い方を敢えてすると、実際に同国道を走ったことのある方もお分かり頂けると思うが、運転スキルレベルの低い大型トラック等の業務用車両の通行が非常に多く、カーブや勾配の多い線形のため一般ドライバーにとっては逃げ道のない片道一車線であることもあり、煽られたりして大変危険なのである。そのような低俗なドライバーは高規格道路に追いやるべきだと思うからである。

私も過去に仕事でトラックに乗ってはいたが、最近は『車』の性能は向上しているものの、『運転技術』の向上が追い付いていないへたれドライバーが大型トラック等に乗っているのが多くなり、見るたびに情けなくなる。スピードだけ出すのならそれこそ子供でもできる。低俗なドライバーは文字通り『子供以下』であると思う。もちろん、全員とかではないが一部の心ない低俗ドライバーにより実際に一般車両を巻き添えにした悲惨な事故が多発しているのも事実である。一人でも多く『美しい運転』のプロフェッショナリズムを心がけてもらいたいと思う。

先人達が命を懸けて開いた歴史ある道なのだから大切に走って頂きたい。

ところで、粗市区建設中の簗川道路は例によって事実上ダム建設の『見返り』のような位置づけで建設されていないかが個人的には危惧される。仮にダムが建設中止となった場合にこの道路も『建設中止』とか言いだすのがお役人クオリティだからである。素人なので推測であるがこの道路は地域高規格道路であると言うことは、たまたまダムで一般国道部分が水没するから代替道路の役目も果たすのであって、本来であれば水没しなくても地域発展のために計画、建設されるものであろう。

個人的には沿線の生活道路として、また歴史ある道として水没なんぞさせてくれるなと願っており、今後のダム建設の推移を見守りたいと思うが、同国道のダム建設予定地の様子を現地にて調査してきたので報告したい。なお、調査日より既に一年半が経過しているが当報告書執筆現在の現地の様子は把握できていない。

なお、本調査は遠征調査としての GNR - 第一次岩手計画 の一調査対象(No.1)である。

調査日:2006/10/21

諸元

国道 106 号諸元

項目 内容
延長 94.1km
起点 岩手県宮古市(新川町 = 国道 45 号交点)
終点 岩手県盛岡市(市役所前交差点 = 国道 455 号起点)
道路指定 1953 (昭和 28) 年 5 月 18 日 二級国道 106 号宮古盛岡線
1965 (昭和 40) 年 4 月 1 日 一般国道 106 号

地図

調査対象の道路地図である。現在の国道 106 号上に建設予定の簗川ダムの位置及びそれによる同国道の水没区間を迂回する地域高規格道路『簗川道路』の予定ルートを示した。

また、簗川ダム建設予定地付近の地形図である。確かに建設予定地がダム建設に適した急峻な地形であることがお分かり頂けよう。また、現在の国道 106 号が簗川に沿ったカーブの多い線形であり地形との戦いの歴史であったことに比較し、現在建設中の地域高規格道路である簗川道路はやりたい放題の直線である。

土木技術の進化の一面を垣間見る気がするが、何か考えさせられるような気もする。

国道 106 号【簗川ダム建設予定地】地形図

出展:国土地理院 地図閲覧サービス(試験公開) 1/25,000 地形図「大志田」 ※管理人一部加工

また、岩手県では『いわてデジタルマップ』としてオンラインでの同県の地図情報を公開している。簗川ダム建設予定地付近について以下のリンク先よりご覧いただきたい。なお、表示後左のメニューより『主題』を『住宅地図』に変更し、表示レイヤを全て有効にしたうえで縮尺を 1/2,500 とすると橋梁名等詳細が表示され興味深い。

調査結果

簗川ダム建設予定地

簗川ダム建設予定付近の国道 106 号脇には同ダムの建設案内板が立てられ、理解を求めている。ここでのスローガンは『「杜と水の都」を子供たちの未来へ』となっている。

上の地形図でも示したように簗川道路がダム湖を豪快に突っ切っている様子がこの完成予想図でも伺える。そして、現在の国道 106 号は堰堤直下で行き止まりとなる。恐らくはダム関係者のメンテナンス道路として残ることになると思われるが、我々一般人も堰堤直下まで利用可能のままであることを望みたい。

国道 106 号【簗川ダム建設予定地】簗川ダム建設案内板

また、実際の堰堤が建設されると思しき地点には『簗川ダム建設予定地』と書かれたこのような看板も立てられている。奥に写るのは冒頭にも紹介した『106 急行バス』である。このような豊かな自然の風景は巨大なコンクリートの壁により破壊されることになることをこの看板は示唆している。

ただし、これも冒頭で記した通りいつの間にか堰堤建設予定地が 40m ほど上流(写真では奥側)に移動しているのでちょうどバスと看板との中間付近になるだろうか。また、堰止められることになる簗川はこの写真では道路の右側にほぼ平行して流れている。

国道 106 号【簗川ダム建設予定地】看板

その簗川はどのような川かと言うと、上の写真からの想像通りである。もちろん大雨や洪水の際は牙をむくのだろうが、普段はこのように清らかな水の流れるまさに清流である。

将来はここにダムによる堆砂及びヘドロが堆積することになるのだろうか。率直に言って私が暴れん坊将軍であったとしたらそれは『断じて許せん』由々しき問題である。

国道 106 号【簗川ダム建設予定地】簗川現況

国道 106 号【簗川ダム建設予定地】簗川現況

先ほどの『簗川ダム建設予定地』の看板付近の簗川右岸(国道側)には同ダム建設に先立つ地質調査のための作業許可標識が掲げられており、作業用と思われる仮設桟道もある。だが、これは現地調査時点のものであり、現在(2009 年 4 月)は既に期間満了に伴い撤去されていると思われる。

国道 106 号【簗川ダム建設予定地】地質調査作業許可標識

地質調査用の作業桟道を見上げる。写真では伝わりにくいが胸突き八丁の斜面に仮設用の単管とはしごで作られたなかなかワイルドなものである。実はかなりの角度で見上げているのである。冒頭の地形図を思い出して欲しい。高所恐怖症の人は上ったら最後降りられないと思われる。

国道 106 号【簗川ダム建設予定地】地質調査作業桟道

この作業桟道を上ってみることにした。元々ガテン系の仕事をしていたため、急勾配とは言え手すりのついた立派な『階段』であるため恐怖心等は一切ないが、ほとんど両手は数段上の段に手をかけて四足で登らざるを得ないほどの急な斜面であった。

終点と思しき地点の脇には何やら小屋と言うか櫓のようなものが設置されている。

国道 106 号【簗川ダム建設予定地】地質調査作業桟道

近づいてみると、両脇をトンネルのウイングのように土嚢を積まれた扉であった。『階段』もここで終わっていることからこの扉の中で簗川ダム建設に伴う地質調査が行われているようである。

ちなみに、この写真でようやく『階段』が鬼のような斜面に設置されていることがお分かりかと思う。しかし、よく土嚢とかこんな扉とかを運び上げたものである。

国道 106 号【簗川ダム建設予定地】地質調査櫓

扉の前から櫓の内部を覗くと、まるで古い鉱山のような木製支保工と手掘りのような雰囲気の穴が見えた。恐らくはこの最奥部で水平ボーリング等による地質調査が行われているのだろう。現在は埋め戻されているだろう。でもどうやって ?

国道 106 号【簗川ダム建設予定地】地質調査櫓内部

国道 106 号【簗川ダム建設予定地】地質調査櫓内部

ここで、『階段』を振り返って見下ろしてみる。写真では急勾配の加減が伝わりにくいが、先ほどの櫓の写真から角度を想像してみて欲しい。

国道 106 号【簗川ダム建設予定地】地質調査作業桟道

実はこれを下っている際にエゾシカが眼下を横切った。この付近では全く珍しいことでも何でもないが福岡育ちとしては稀な出来事である。慌ててカメラを構えたがへなちょこコンパクトカメラであったこともあり、ダメダメな写真となってしまった。

『階段』に後ろ足がかかっているのがお分かり頂けるだろうか。こちらは突然の物音に驚いたがもっと早くから警戒しまくっていたのはむしろエゾシカのほうであろう。

国道 106 号【簗川ダム建設予定地】地質調査作業桟道とエゾシカ

実はこの地質調査は簗川の左岸(国道の反対側)にも存在し、国道上より確認することができる。これも現在は既に撤去済みの可能性が高い。今回はこちらは近づいていないため詳細はふめいであるが、恐らくはここで紹介した右岸側の櫓と同様に内部でボーリングが行われていると思われる。

ただ、この地点の簗川には橋が架かっていないため、櫓から川に伸びるはしごは渡河して行けということであろう。しかし、左(上流側)に伸びる桟道はどういうことだろうか。別のアプローチルートがあるということなのか。

国道 106 号【簗川ダム建設予定地】地質調査作業桟道及び櫓

ということで、少々上流のほうへ移動してみると謎の吊り橋が架けられていた。仮設のような雰囲気でもあり、地質調査のためだけに新たに架けられたのかも知れない。対岸には例えば農地等があるわけではなく険しい断崖絶壁のみであるため、その可能性は高いと思われる。遊歩道だとしてもこの付近にそのような情報を見かけたこともないからである。

国道 106 号【簗川ダム建設予定地】吊り橋(詳細不明)

総評

この簗川ダムは洪水調整や各種利水、さらには上水道用水の確保等も想定されているようである。つまりは多目的ダムである。簗川下流域は盛岡市郊外であり宅地化が急速に進んでおり、平成に入ってからも簗川の増水による被害は発生しており様々な案の比較検討の結果ダム建設がコストも最も安く済み最適だと言う。

だが、往々にしてこのような試算や比較検討の際お役人方は都合の悪い数字を盛り込まず、非現実的なものとなるのは道路建設等でよくある話である。

ダムはイニシャルコストもさることながら膨大なランニングコストと先にも触れた通り堆砂やヘドロと言った計画時の担当者からすれば『それは俺は知らん』と逃げれる未来の事象による影響やコストを数字等に盛り込んでいないのではないか。

ダムのような巨大な公共事業による雇用や地域経済の活性化とかもひょっとすると効果として取りあげているかもしれないが、それはまるで中国が『駆逐艦を建造すれば自国の経済が上向く』として計画している話と同レベルであり、笑止千万と言えよう。

このような時代だからこそ、地域に根差しなおかつ継続的で事前環境に配慮した事業を検討すべきではないだろうか。個人的には三陸地方の東西及び南北軸としての地域高規格道路は物流や地域経済の活性化としては意義のあるものと考えており、冒頭で述べた通り一般利用者の安全確保の面からも重要であるとも思う。

しかし、平行する現国道の水没は賛成しかねる。現在建設中の簗川道路はそれこそ『空を駆ける』ような道路であり、沿線住民が生活道路として利用できるような代物ではない。我々一般人からすればまるで『無料の高速道路』である。写りは悪いが次の写真でその雰囲気は感じ取って頂けると思う。これは現在の国道 106 号から見上げた簗川道路 5 号橋である。

国道 106 号【簗川ダム建設予定地】簗川道路(5 号橋)

当サイトは個人の趣味をつらつらと書いているだけなので、あまりこのような主義主張には触れない方針だが、簗川ダムについては多くの疑問点が論じられているようでもあり、個人的にもあまり賛成できないので珍しく書かせて頂いた。ただ、あくまでも素人の感想であり、豊かな自然と歴史に彩られたこの地域を末永く見守っていきたい。

なお、仮に当報告書で取りあげた簗川ダムダム建設予定地を訪れる際には付近にちょっとした駐車帯のような箇所があるのでそちらに車を置いて徒歩にてアクセス願いたい(私もそうしている)。冒頭にも述べた通り片側一車線で大型トラックや 106 急行バスが頻繁に往来するため絶対に路肩に駐車等の行為は慎んで頂きたい。また、歩道はないので徒歩の際も充分注意して頂きたい。

また、同ダム建設に伴い国道 106 号だけではなく、岩手県道 43 号盛岡大迫東和線も水没するがこれは未調査であるが水没前に訪れたい。同県道の水没区間にある落合橋について以下の報告書を公開したのであわせてご覧頂きたい。

参考文献等


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